小児のシュガーコントロールについて

みなさんこんにちは。宇都宮市みろ歯科、歯科衛生士の山根です。
あっという間に4月になりました!新年度になり、環境が大きく変わる方も沢山いらっしゃると思います。忙しいとどうしてもお口のことは後回しになりがちですが、少しでも気にかけていただけたら幸いです。

さて今回も小児のシュガーコントロールについて続きをお話ししていきます。
遊離糖の供給源のひとつ、果汁飲料についてもう少し詳しくお伝えしていきます。
アメリカ小児科学会は果汁飲料の摂取量についてポリシーステートメントを発表しています。

日本では、離乳開始前に果汁を与えることについては、厚生労働省が「授乳・離乳の支援ガイド」において、アメリカ小児科学会と同様に栄養学的な意義がないため不要としていますが、これ以上の年齢については特に制限を示していません。
なお、日本には「3ヵ月頃から」といったパッケージ表記の製品も存在しますが、WHOは母乳代用品のマーケティングに関する国際規準のなかで6ヵ月未満の表記を規制していますので、実はこの規準に違反する表記です。
また、余談ですが、アメリカ小児科学会はスポーツドリンクについても見解を提示しており、学校で与えるべきではなく、アスリート以外は不要、とはっきりと示しています。
ここまで果汁飲料の遊離糖についてお話ししてきましたが、なぜ果物と果汁飲料でむし歯への影響が違うのかをこの後お話ししていきます。
WHOは全粒穀物、果物、野菜に含まれる糖質をslowly digestible starch (SDS、緩徐消化性デンプン)と表現し、遊離糖と組み合わせられたrapidly digestible starch (RDS、急速消化性デンプン)と区別して、「歯科医療従事者はSDSの消費を促進し、RDSのみを制限するよう提唱する必要がある」としています。
果物がむし歯の原因にならないというわけではありませんが、原則的にはジュースのようなRDSに制限の焦点を当てるべきだということです。
なぜRDSだけを制限すべきかというと、食品を加工することにより、一般的にあまり噛まない食形態になってしまうことと、糖質の他に摂取したい栄養素が取り除かれてしまうからです。
例を挙げると、サンプル数は少ないのですが、サトウキビをかじった場合と、サトウキビと同量の砂糖を含む砂糖水でうがいをした場合のプラーク中のpHを計測した研究があります。砂糖水でうがいをすると当然臨界pH以下まで低下しますが、サトウキビをかじってもpHはほとんど変化せず、臨界pHまで下がることはなかった、という結果でした。その理由として、サトウキビを噛むことによって唾液分泌が促され、唾液の緩衝作用によりpHがあまり下がらなかったのではないかと考察されています。
たとえばりんごは咀嚼を必要としますが、りんごジュースは咀嚼しませんから、果物と果汁飲料でも、サトウキビと砂糖水の場合と同様の現象が起きると考えられます。また、生の皮つきりんごの場合、可部100gあたりの糖質量は16.2gですが、りんご果汁飲料ストレートジュース100gあたりの糖質量は11.8gとなっています。りんご1個はおよそ300gですので、まるごと食べると糖質量は48.6gとなります。この数字だけ見るとりんごそのもののほうが糖質量は多く感じるかもしれませんが、りんごそのものには食物繊維等、積極的に摂りたい栄養素も含まれます。りんごジュースにしてしまうとそれらが取り除かれてしまうため、糖質だけを過剰に摂取してしまいがちになります。
以上の理由から、果物の摂取は基本的に推奨されても、果汁飲料は(100%果汁でも)控えるべき、となります。
ここまで3回にあたり、小児のシュガーコントロールについて科学的根拠を示した上でお話しさせていただいたので、少し難しい話になってしまいましたが…お子さんのおやつの時などに少しでも今回の話を思い出していただけたら幸いです。