世界の子どもの歯科事情14

こんにちは!宇都宮市みろ歯科受付鈴木です。

ケーキ作りってとっても奥が深く、ケーキのレッスンは何度行っても勉強の日々です。

最近はカヌレを作成しました。様々なケーキに出会えて楽しい日々を過ごしています。

次はどんな料理やケーキ、パンを作るか楽しく考えながらいます。

 さて、世界の子どもの歯科事情はデンマークの紹介です。 

 デンマークってどんな国? 

 正式名:デンマーク王国 

 首都:コペンハーゲン

 国土:43094 

 人口:578万人(2018年) 

 1人あたりGDP56444ドル

北欧にあるデンマークは、人口が約578万人(兵庫県とほほ同じ)、面接が約43000㎢(兵庫県の約5倍)と小さな国ですが、社会福祉制度が発達していることで有名です。

登録歯科医師数は7.989名、そのうち65歳未満の現役歯科医師は約5,600名、また65歳未満の現役歯科衛生士は2,147名です。

 

公的歯科保健事業 

デンマークにおける医療保健事業は税金を財源として運営され、国民は外来及び入院などのすべての医療を無料で受けることができます。

しかし、歯科医療に関しては年齢によって異なります。0~18歳未満までの子どもは、学校内に設置された学校歯科診療室で、歯科健診、保健指導、予防処置、保存・補綴・外科処置・矯正治療など、すべての治療を無料で受けられます。

一方で、18歳以上の成人に関しては、治療内容によって政府からの補助率が異なっており、平均すると政府からの補助は歯科治療費の約20%、自己負担が約80%です。

補助の対象となるのは、診査・診断、予防処置、充填、歯肉療法、抜歯、歯周治療で、予防処置や基本的な治療に対して政府からの補助率が約40%と高く、口腔外科などの高額な治療に対する補助率の割合は低くなっています。矯正治療、クラウン・ブリッジ・義歯などの補綴治療は、補助の対象外ですべて自己負担となります。

日本の医療保険制度では、一般的に歯科治療費の自己負担の割合は30%と決まっています。

しかし、デンマークでは予防処置への補助は手厚く、歯を悪くして抜歯したり、補綴治療が必要となると自己負担金が増えるという予防を重視した制度になっています。成人でも低所得者、施設に入居している高齢者、そして介助の必要な障がい者は無料で歯科治療を受けることができます。

通院可能な患者は歯科保健センターに来て治療を受け、通院できない患者に対しては、歯科治療移動車や老人ホーム内で歯科治療を提供しています。

コペンハーゲン市では、毎年約600名の高齢者が在宅歯科治療を受け、45か所の老人ホームで年間約4,000名の患者が歯科治療を受けています。

  

子どもを対象とした歯科保健事業 

 .学校歯科保健事業

1972年に「子どものためのデンタルケア法」が施行され、その後40年以上にわたって、子どもに対する歯科保健事業が実施されています。1971年以前は、子どもの歯科保健事業は各自治体の方針で運営され、国として統一したガイドラインはありませんでした。デンタルケア法が成立してことで、すべての自治体が子どもの歯科保健事業を提供することが義務化せれ、さらに、1986年の法改正により0~18歳までのすべての子どもの歯科治療が無料で提供されるようになりました。子どもへの矯正治療を含むすべての歯科治療は主に学校内に設置された歯科治療室で、公務員である専属の歯科医師(学校歯科医)によって無料で提供されます。また、歯科衛生士が教室単位で子どもたちに健康教育を行う機会もたくさんあります。16歳になると、本人が希望すれば、学校歯科診療室ではなく民間の開業歯科医院で治療を受けることもできます。その場合も歯科治療費18歳になるまで無料です。現在、18歳未満の子どもの約90%が学校歯科保健事業を利用し、残りの約10%の子どもの民間の歯科医院での治療をうけています。公務員の歯科医師が少なくて学校歯科診療室を設置できない地方の自治体では、民間の歯科開業医と契約して子どもへの歯科治療を行っています。この場合は、矯正を含めたすべての治療が無料で提供されます。

 

 2.学校歯科診療室の様子

コペンハーゲン市内には、一般歯科治療のみ行う学校歯科診療室が50校に、一般歯科治療および矯正歯科治療を行う学校歯科診療室が4校に設置されています。歯科治療室のない学校の児童生徒は、近隣の学校の歯科室を利用できます。また、5歳以下の乳幼児も学校歯科室で歯科健診や治療を受けられます。

私たちが見学したグルドバーク総合初・中等学校は、日本の小学校と中学校(小中一貫校)に相当し、一般歯科治療と矯正治療の2つの診療室が設置されていました。矯正歯科治療室が設置されていない学校に通う子どもも、この学校に来て矯正治療を受けています。学校歯科治療室には、学校歯科医以外に歯科衛生士、歯科助手、受付スタッフなどが多数勤務し、朝8時10分から15時までの診療を行っています。朝早くから多くの子どもたちが治療のために来院しています。デンマークでは、授業を抜けて治療のために歯科室に来ても欠席にはなりません。

一般歯科診療室では、毎日4名の学校歯科医師が治療を行っています。歯科医師は1日に平均11名の子どもの治療や予防処置を行います。歯科衛生士は常勤1名で予防処置を主に担当し、栄養指導や歯磨き指導などは2名の歯科助手が担当します。

矯正治療室では1日に100~120名の児童生徒が治療を受けに来ます。常勤と非助勤合わせて常時2名の矯正専門医が勤務し、1名の常勤の矯正歯科衛生士、3名の歯科助手が協力して治療を行います。矯正専門医が主として治療計画の立案と矯正治療を、歯科衛生士が治療方針の決まった患者に対して必要な処置を行います。

デンマークの歯科衛生士の業務範囲は日本と比較して広く、基本的な診断や局所麻酔を行うことができます。また、登録すれば自分で診療所を開設することもできます。歯科衛生士には通常の歯科衛生士のほかに、専門的な研修を受けて矯正処置が行える矯正歯科衛生士の2種類があります。

 

3.矯正治療について

デンマークでは、学校歯科保健事業によって矯正治療が無料で提供されています。近年、う蝕より不正咬合への関心が高まり、矯正治療を希望する子どもが50%を超える学校もあります。しかし、すべての子どもの希望に対応することはできないため、矯正治療のスクリーニングを毎年厳密に実施し、約25%の子どもが矯正治療を受けています。

最初に、定期歯科健診時に一般の学校歯科医が「矯正スクリーニング基準」に基づき、矯正治療の必要性について診査します。審美的な要求だけでは無料の矯正治療は受けられず、顎関節痛などの機能障害のある場合に対象となります。次に、治療の必要性が疑われる子どもは矯正専門の学校歯科医に紹介され、最終判断は一般の学校歯科医と学校の矯正専門医が共同で行います。矯正治療の必要性は「歯と歯周組織の障害」、「機能的リスク」、「後発的な障害」、「心理社会的リスク」の4段階に評価されたリスクに基づいて実施されています。

 

4.子どものう蝕有病状況

デンマークの子どもの口腔保健状況に関するデータは、毎年の学校歯科保健事業での健診結果を用いています。歯周病と不正咬合の診査は、12歳と15歳を対象に行っています。健診結果は子どもや保護者に伝えると同時に、学校歯科診療室での健康教育に利用されます。また、収集したデータを自治体が分析し、歯科保健の目標値設定の際に使用しています。

デンマークの5歳児の乳歯う蝕の有病率は1988年の37.1%から、2005年の25.0%へと減少しています。12歳児のDMFTは5.2歯(1975年)、5.0歯(1980年)、2.1歯(1985年)、1.0歯(2000年)、0.7歯(2008年)、0.6歯(2012年)、0.4歯(2014年)と大きく減少しています。

 

.フッ化物応用

デンマークでは水道水フロリデーションは実施されていませんが、いくつかの地域では天然のフッ化物が飲料水に含まれています。集団フッ化物洗口が学校で実施されていたことも以前はありましたが、現在はう蝕が減少したためほとんどが中止され、ハイリスク児に対してのみ推奨されています。

 

6.歯科定期健診の受信状況

全年齢層の歯科定期受診者の割合の経年変化をみると、58.8%(1975年)、69.5%(1985年)、75.7%(1995年)、86.7%(2005年)と増加しています。年齢階級別にみると、1975年の15~24歳の定期歯科健診受診率は90.2%です。その年齢層は2005年の45~54歳に該当しますが、定期歯科健診受診率は94.8%で、30年以上経過しても高い数値です。このように、子どもの時から学校歯科保健制度による健診を受けてきた年代にあたる45歳以上は、1995年と比較して2005年では定期健診を受けている人が増加しています。

 一方、比較的若い世代の成人では定期健診を受ける人の割合が減少しています。2005年の15歳~24歳、25歳~34歳の受診率は70%台で、他の年齢層と比較すると歯科健診の受診率が低くなっています。デンマークの保険省は、この理由の一つとして「若い世代の口腔保健状況が改善し、定期健診を必要と考えない若者が増加したのでは」と考え、若い世代に対して定期健診受診時の自己負担金を減らす制度を導入しました。この新しい制度の導入の結果、定期受診のするとの割合がどのように変化するのか。フォローアップ調査を行う予定になっています。

 

7.日本とデンマークの学校歯科の比較

デンマークと日本の学校歯科保健制度は、すべての子どもに隔たりなく歯科保健サービスを提供しています。2014年の12歳児のDMFT0.4歯で、日本の約1/2の数値です。子どものう蝕が少ないのは、乳幼児の頃から受ける健康教育、歯科健診、歯科治療などの効果と考えられます。日本にも学校歯科保健制度があり、毎年歯科健診や健康教育を行っており、う蝕も徐々に減少してきました。しかし日本では、成人の定期歯科受診率がデンマークと比較するとかなり低いのが現状です。

デンマークの成人の定期健診の高い受診率の背景には、子どもを対象とした予防から治療のすべを包括した充実した学校歯科保健サービスが大きく影響していると思われます。乳幼児のときから学校歯科診療室において、毎年定期的に予防処置や健康教育を受けて、歯の健康の大切さを学んでいます。また、高校生になると学校歯科室だけでなく、開業歯科医院においても、無料で歯科健診が受けられるシステムになっています。

そのような橋渡しのシステムがあることで、高校卒業後にかかりつけ歯科医を定期的に受信する習慣が身につくのではないかと示唆されます。 

 

〇まとめ 

デンマークの学校歯科保健制度によって学童期に定着した保健行動は、成人になっても継続して、高い定期歯科健診受診率につながっていると考えられました。