世界の子どもの歯科事情⑫

こんにちは!宇都宮市みろ歯科受付鈴木です。 

自宅の庭に植えた苗が顔をだし、花を咲かせそうです。 写真だとわかりずらいですが、葉が四葉のクローバーになっています。 少しでも幸せな気分になっていただけたらと思います

長くなってきましたが、今回も世界の子どもの歯科事情はオーストラリアの紹介です。 

〇オーストラリアってどんな国? 

 正式名:オーストラリア連邦 

 首都:キャンベラ 

 国土:7.692.024㎢ 

 人口:2.470万人(2016年) 

 1人あたりGDP:55.707ドル  

 オーストラリアは、オーストラリア本土、タスマニア島、その他いくつかの島からなる世界で6番目に大きい国で、日本の約20倍の面積です。6つの州と2つの特別地区に分かれていて、各州が独立した連邦制をとっています。 

南半球に位置しているため、日本とは季節が反対になりますが、北部と南部とでは気候がかなり異なっています。 

 オーストラリアは四方を海に囲まれて地理的に隔離されていたこともあり、動植物などの生態系が非常に特徴的です。コアラやカンガルーなどの有袋類や、カモノハシなどの単孔類などがその代表です。 

 オーストラリアは移民の国で、人口の約80%はヨーロッパ系が占め、アジア系も約12%います。オーストラリアの先住民であるアボリジニーは約2%です。 

〇オーストラリアの歯科医療従事者 

1.歯科医師 

 オーストラリアDental Boardのデータによると、歯科医師数は16.695名(2017年)で、女性歯科医師の割合は40%です。人口10万対の歯科医師は約68名で、日本の82名(2016年)と比較して低い値です。 

 歯科医師の養成を行っている大学は9校で、すべて公立です。教育年限は大学により異なっています。たとえばシドニー大学やメルボルン大学は理系大学の卒業生を受け入れ、4年間の歯学教育を提供しています。一方、高校卒業後の学生を入学させる場合は、5年制と7年制の教育があります。どの大学も臨床教育を重視しており、学生は病院で患者実習を2~3年行います。日本のような国家試験はなく、大学卒業後にDental Boardに登録すれば、歯科医師として働くことができます。 

 オーストラリアでは歯科専門医の種類が多く、矯正歯科、歯周治療、歯科補綴、顎顔面口腔外科、歯内療法、小児歯科、口腔外科、口腔診断、法歯学、口腔病理、歯科公衆衛生、スペシャルニーズ歯科、歯・顎顔面放射線の13分野があります。専門医の総数は1.730名(2017年)ですが、小児歯科専門医の数は132名(7.6%)と少ないです。後述するように、オーストラリアでは子どもの一般的な歯科治療は、学校歯科クリニックや移動歯科診療車で、歯科医師ではなくデンタルセラピストが行っているからです。 

2.その他の歯科医療従事者 

 オーストラリアで歯科医師以外に歯科医療に携わる職種として、デンタルセラピスト、歯科衛生士、口腔保健セラピスト、歯科助手、歯科技工士、歯科補綴士があります。 

〇オーストラリアの医療保険制度 

1.医療保険制度の概要 

  オーストラリアの医療保険制度は複雑で、種々の公的保険、民間保険が存在し、財源とその調節機構もさまざまです。医科に関しては国民皆保険のメディケアがあり、オーストラリア国民であれば無料あるいは比較的安価で医療を受けることができます。しかし、無料で受けられる診療項目は限定されており、医師の選択ができない公立病院に利用が限られています。そこで、より自由度の高い質の高い医療を受けるために、人々は民間の医療保険にも加入しています。 

 歯科に関しては、子どもが対象の場合、小児歯科給付制度や各州が提供している学校歯科保健サービスがあります。しかし、成人対象の公的な歯科保健サービスはほとんどありません。メディケアで提供されている成人歯科サービスは唇裂口蓋裂に伴う歯科治療のみに限られています。州による低所得者や高齢者に対する歯科保健サービスはありますが、基本的には成人では民間歯科医療保険が主体となっています。 

2.公的歯科医療保険 

 1)小児歯科給付制度 

  2歳から17歳の低所得者の子どもを対象に小児歯科給付制度が実施されています。2年間で1.000ドル(約85.000円)までの歯科治療費が給付されます。給付される治療内容には、X線撮影、歯のクリーニング、フィッシャーシーラント、充填治療、根管治療、抜歯が含まれます。矯正治療や審美治療はカバーされません。 

2)州による歯科保健医療サービス 

 17歳以下のすべての子どもを対象に、無料または低価格の歯科保健医療サービスが、学校および地域の保健センターで提供されています。州ごとに対象年齢や資格は違いますが、主な内容は口腔内診査、保健指導、X線撮影、歯のクリーニング、フッ化物塗布、フィッシャーシーラント、充填、抜歯、専門歯科への依頼などです。 

3)民間歯科医療保険 

 個人または家族単位で、民間の医療保険に歯科を追加することができます。この場合、歯科治療費のすべて(あるいは一部)がカバーされます。 

 2013年の調査では、5歳以上の全人口の49.7%がさまざまなレベルの民間歯科保険に加入していました。年齢別でみると、45~64歳が民間の歯科医療険への加入率が最も高く57.0%、65歳以上では他の年齢層と比較して加入率は低く、46.2%でした。歯の有無別にみると、有歯顎者の歯科医療保険の加入率は45~64歳は58.1%、65歳以上は51.2%でした。一方、無歯顎者の加入率は低く、45~64歳は23.6%、65歳以上は25.3%でした。 

 歯科医療保険に加入している成人において、歯科治療費の一部が保険で支払われているものは77.3%、全額が支払われているものは8.5%でした。一方、歯科治療費を全額自己負担している者は10.4%でした。 

〇歯科保健週間(Dental Health Week) 

日本における6月4日~10日の「歯と口の健康週間」のように、オーストラリアの8月の最初の1週間は「歯科保健週間」です。この期間、オーストラリア歯科医師会(ADA:Ausutralian Dental Association)は、口腔を健康に維持・増進することの重要性を普及・啓発するために、さまざまな事業を実施しています。 

 毎年違ったテーマが取り上げられ、2017年は「忙しい生活の中でのお口の健康」に焦点が当てられました。ADAはパンフレットやウェブサイトを作成して、適切な歯磨きやフロスの方法、健康的な食事や栄養、定期的な歯科健診の重要性などの情報を国民に広く提供しています。 

〇小児の口腔保健状況    

 2010年に行われた小児歯科保健調査によると、週にう蝕は、5歳児2.32歯、8歳児2.63歯、10歳児1.78歯でした。2011年の日本の歯科疾患実態調査によると、同年齢の乳歯のう蝕はそれぞれ2.77歯、3.02歯、2.00歯なので、日本と比較してやや低い値です。永久歯う蝕は、オーストラリアは6歳児0.13歯、10歳児0.73歯、15歳児2.63歯、日本はそれぞれ0歯、0.48歯、2.96歯でした。6歳児と10歳児では日本のほうがやや低く、15歳児は日本の方がやや高いことがわかります。また、12歳児のう蝕はオーストラリアは1.34歯であり、日本の1.35歯とほほ同じ値です。 

 歯科保健に関する意識や行動に関しては、全国歯科電話インタビュー調査が行われています。2010年の調査によると、2~17歳の子どもの5.3%が、自分の口腔の健康状態は「普通」あるいは「不良である」と回答していました。また、過去1年間に7.0%が歯の痛みを経験しており、それより9.5%が「食事の際に不自由を感じた」と答えていました。 

 歯科受領行動に関しては、2~4歳で28.4%、5~11歳で75.7%、12~17歳で81.8%が過去の1年間に歯科医院を受診しており、その受診理由の約8割は「定期歯科健診」でした。5歳以上の子どもの約55%が定期歯科健診は必要と考えており、約30%は歯科受診を妨げている要因として経済的理由を挙げていました。実際、治療費が高いために歯科治療を回避したり遅くしたり、必要な治療を受けられなかったと答えたものが13.3%いました。歯科予防処置のうち、5歳以上の子どもが最も受けていたのはスケーリングと歯のクリーニングで64.9%でした。次いで口腔清掃指導が45.5%、フッ化物処置が31.9%、シーラントが11.6%でした。 

〇オーストラリア国民口腔保健計画 

 最初のオーストラリア国民口腔保健計画は2004年にオーストラリア保健局会議によって採択され、2004~2013年に実施されました。この計画の目的は、口腔の健康を向上させるとともに歯科疾患の減少させ、オーストラリア国民全体の健康や福祉をかいぜんすることでした。7つの領域(国民全体の口腔保健の促進、子どもと青少年、高齢者、低所得者と社会的弱者、特別なニーズを持つ人々、先住民とストレス諸島の人々、労働力の開発)において、活動目標が設定され、各州で様々な口腔保健活動が行われました。 

 現在は、オーストラリア国民口腔保健計画2015-2024が実施されており、基本概念として、ポピュレーションアプローチ、全国民への公平な取り組み、適切で利用可能なサービス、口腔と全身の健康の統合が掲げられています。また、6つの基本領域(オーラルヘルスプロモーション、口腔保健サービスの適切な利用、口腔保健おための各システム協力体制、安全性と質、適切な労働力、研究と評価)と4つの優先対象者(社会的弱者と低所得者、先住民とトレス諸島の住民、地方や遠隔地に住む人々、特別な健康ニーズをもつ人々)が設定され、それぞれに対し具体的な対策と指標が定められています。 

〇まとめ 

 オーストラリアでは、医科に関しては国民皆保険であるメディケアがありますが、より快適な医療を受けるために国民の約半数は民間医療保険にも加入しています。歯科に関しては民間保険が主体であり、特に成人では公的歯科サービスは非常に限られたものしかありません。歯科治療費も高く、日本のように誰にでも簡単に歯科治療を受けられる状況はりません。そこで、歯科疾患の予防と取り組みとして、全州で水道水フロリデーションが実施されています。