世界の子どもの歯科事情⑪

こんにちは!宇都宮市みろ歯科受付鈴木です。 

立春もすぎ、すこし暖かくなってきました。もうすぐ、当院近くの河津桜も咲き出す気候となれば過ごしやすくなりますね。 

一日でも早いコロナの収束を願い、元の日常が戻るように皆様、かんばっていきましょう!!! 

シンガポールってどんな国?

今回も世界の歯科事情の紹介です。今回はシンガポールについてお話しします。

正式名シンガポール共和国

  首都:シンガポール

国土:714㎢

  人口:561万人(2017年)

  1人当たりGDP:57.713ドル

シンガポールの国土は714㎢で東京23(約700㎢)とほぼ同じであり、人口は約561万人で、東京23区(約1.200万人)の半分以下です。他民族国家であるため、公用語として、英語、中国語、マレー語、タミール語が使用されています。

シンガポールの歯科事情

歯科医師数は1.699(2012年)、人口10万人あたりの歯科医師数は約30名で、日本(約80名)と比較すると半分以下です。歯科医師養成機関はシンガポール国立大学歯学部1校で、教育年限は4年間です。卒業後の臨床研修制度はありませんが、正規の登録歯科医師となるためには、指導医のもとで2年間の診療経験を積むことが必要となります。

 シンガポールでは、歯科医師は2年ごとに免許の更新が必要です。免許更新のためには、生涯研修を受け、70単位以上取得することが必須です。歯科専門医は7種類、人口の多い順に、矯正(88名)、補綴(61名)、口腔外科(59名)

歯内診療(40名)、歯周病(37名)、小児歯科(13名)、歯科公衆衛生(5名)となっています。

 シンガポールには歯科衛生士という職種はありませんが、オーラルヘルスセラピストが337名(2012年)います。専門学校で3年間の教育を受け、保健指導、予防歯科、歯石除去、簡単な歯科治療(乳歯の抜歯、充填処置)を行うことができます。

シンガポールで小児歯科の専門医が少ないのは、学齢期の子どもの治療は歯科医師ではなく、学校歯科保健サービスの中でオーラルヘルスセラピストが行うからです。

 シンガポールでは「Medisave」という公的医療保険制度があり、すべての国民が加入しています。また、高額医療費に対する任意加入の保険制度もあります。これらの保険では、医療に関しては外来診療および入院治療に対して、給付がありますが、歯科医療に関しては外科手術に対してのみ保健が適応されています。すなわち保存処置、補綴処置、通常の抜歯は適応外です。口腔内の膿瘍切開、膿瘍切除、嚢胞摘出、粘液腫瘍の摘出、埋伏歯の抜歯、インプラントの埋入などは、「Medisave」により規定された医療費が補助されています。したがって、一般の歯科治療費は病院や歯科診療所によって異なり、自由に設定されています。

公的な歯科保健事業

水道水フロリデーション

シンガポール1954年に水道水フロリデーション開始し、1957以降は100%の普及率ですフッ化物濃度は最初は0.7ppmでしたが、他のさまざまなフッ化応用が普及したことから、1992年に0.6ppmに、2005年にはさらに0.5ppm引き下げられました。この水道水フロリデーションは、シンガポールの子どものう蝕減少に大きく貢献したと考えられます。

2学校保健サービス

 学校保健サービスは1955年に開始され、最初は小学生のみを対象としていましたが、2002年からは中学生も対象となりました。管轄するのは健康推進局で、教育省の予算で実施されています。現在、学校歯科保健サービスの実施施設は小学校100%、中学校96%であり、利用者は小学生277.916名(97%)、中学生178.179名(87%)になっています。

 児童生徒は、授業時間中に交代で歯科を受診(約20~30分)することができます。学校内に設置された歯科クリニック(約200か所)や移動式歯科診療車(約30台)の中で、オーラルヘルスセラピストが歯科健康教育、歯科健診、予防処置、簡単な修復処置、乳歯の抜歯などを行います。オーラルヘルスセラピストが対応できない複雑で専門的な治療が必要な場合には、健康推進局の歯科センターにおいて歯科医師が治療を行います。

 全員を対象とした歯科健診は2年に1回行われます。しかし、ハイリスク者には毎年歯科健診が実施されます。健診結果はその場ですぐオーラルヘルスセラピストが電子カルテに記入し、管轄する健康推進局に送られて集計されます。2006年、学校歯科保健サービスにIDEAS(Intergrated Dental Electronic Assessment for Student)が導入され、インターネットを利用した学校保健の電子入力システムが稼働しました。児童生徒の健康診断の結果や治療経過を共有できるようになり、学校歯科クリニックと健康推進局が連携して歯科治療を提供できるようになりました。学校歯科クリニックでオーラルヘルスセラピストが行う治療や予防処置は無料ですが、歯科センターで歯科医師が行う治療は本人が費用の25%を負担し、残りの75%は政府からの補助があります。

  う蝕リスク評価は2005年に導入されました。最初は治療カルテにう蝕リスクを示す色分けシールを貼付していましたが、電子カルテ導入後は、過去のう蝕経験、ホワイトスポットの数、口腔清掃状態などの要因をシステムに入力し、子どものう蝕リスクをコンピューター上で確認したり、経過観察する際に利用しています。う蝕リスク評価で、低リスクと判定された小学校5年生と3年生はスクリーニング対象者から除外されます。このようなう蝕リスクを導入したことで、小学校における学校歯科保健プログラムに必要なオーラルヘルスセラピストの数が減少させることができました。

 オーラルヘルスセラピストは学童を対象とするだけでなく、幼稚園で健康教育を行ったり、学校の休暇期間中に未就学児を対象とした歯科健診や歯科治療も行います。さらに、歯科医師と一緒にコミュニケーションヘルスセンターや高齢者施設を訪問し、高齢者を対象にし歯石除去や充填処置を行う場合もあります。

3体験学習型ヘルスプロモーション施設

  学校歯科センターの隣には、体験学習型ヘルスプロモーション施設が併設されてます。ここでは子どもたちが全身と口腔の健康の大切さを楽しく学び、毎日の生活の中で実践をしていくことを目的としています。施設の中は、栄養・BMI、運動、妊娠・出産、薬物依存、糖尿病、高血圧、心臓疾患、がん、心の健康、歯の健康などのテーマごとに区切られており、説明は英語、中国語、マレー語、タミール語の4か国語で表示されています。子どもたちが展示パネルや模型を実際に見たり触ったり、クイズに答えたりしながら館内を1周すると、健康情報が自然に身につくように工夫されています。

 歯の健康をテーマとしたブースには、う蝕、歯肉炎、矯正装置などが示された巨大な歯列模型が展示されています。また、歯の萌出時期、歯によい食べ物、ブラッシング方法、口腔がんなどについて学べるようになっています。

 学校歯科センターや体験学習型施設がある建物では、エレベータのドアや階段の前、自動販売機などいろいろな場所に、「禁煙をしよう」、「運動をしよう」、「野菜・果物を摂取しよう」などのヘルスプロモーションのメッセージが書かれています。

子どもたちの口腔保健状況

1乳歯のう蝕有病状況

2009年に発表された3~6歳の未就学児1.782名を対象とした調査によると、約40%の子どもに乳歯のう蝕がみられました(3~4歳:26%、4~5歳:37%、5~6歳:49%)。dmftは1.54±2.75、dmfsは3.30±7.49で、未処置う歯が90%を占めていました。4歯以上のう歯があるカリエスリスクの高い子どもは16%いましたが、彼らが全体の78%のう蝕を有しており、う蝕の分布には偏りが認められました。ランパントカリエスは16.5%の子どもたちにみられました。ランパントカリエスは民族的にはマレー系が多く、男児が多い傾向を示しました。 

  2011年の学校歯科保健サービスの7歳児(31.746名)の乳歯に関するデータによると、う蝕有病率は49.5%、dt0.37歯、mt0.14歯、ft1.58歯、dmftはマレー系は2.47歯、中国系は2.06歯、インド系は1.60歯と、マレー系にう蝕が多くみられました。主な修復材料として、以前はアマルガムが使用されていましたが、学校歯科のデータによるとアマルガムの使用率は2007年の60%から2011年の33%に減少してます。

12歳と15歳児の永久歯のう蝕有病状況

 2011年の学校歯科保健の調査対象者は12歳児38.628名、15歳児33.093名です。12歳はう蝕有病率:29.4%、DT:0.01歯、MT:0、FT:0.55歯、DMFT:0.56歯です。15歳児はう蝕有病率:40.0%、DT:0.05歯、FT:0.99歯、DMFT:1.04歯です。両年齢とも、また、どの民族においても、女子のほうが男子よりDMFTは高い数値を示しました。

3日本とシンガポールの12歳児のDMFTの比較

  2003~2012年の日本とシンガポールの12歳児のDMFTを示します。日本は学校保健統計調査の数値で、シンガポールはIDEASを利用して電子入力された学校歯科保健サービスの集計値です。2003年では日本(2.09歯)はシンガポール(0.74歯)より、約3倍う蝕が多くありましたが、日本の子どものう蝕は毎年減少していき、2012年には日本(1.10歯)とシンガポール(0.54歯)の差は、約2倍になりました。

 シンガポールにおいて、12歳児のう蝕が少ないのは、水道水フロリデーションの効果だと考えられます。また、学校歯科保健サービスで歯科治療を行うため、未処置歯は少なくなっています。

まとめ

シンガポールでは、水道水フロリデーションの普及率は100%です。また、ほぼすべての小中学校で学校歯科保健サービスが提供されており、予防歯科治療を行っています。体験学習型ヘルスプロモーション施設もあり、ポピュレーションアプローチとハイリスクアプローチとを上手に組み合わせて、子どものう蝕予防対策を国全体で推進しています。