世界の子どもの歯科事情⑥-3

今回も引き続きタイの歯科事情についてお話していきたいと思います。

〇フッ化物の応用

  歯科医院ではフッ化物歯面塗布が行われています。また、フッ化物配合歯磨剤は広く復旧しており、市販されているほとんどの歯磨剤に1.000ppmのフッ化物イオンが配合されています。最近の調査によると、学童の91.4%がフッ化物配合歯磨剤を使用していますが、年齢が増加するにつれ使用率は減少し、15歳では89.5%、成人では81.0%、高齢者では80.7%でした。

 タイでは、水道水のフロリデーションを実施している地区はありません。一部の地域では、飲料水中に高濃度のフッ化物イオンが検出され、歯のフッ素症がみられます。過剰なフッ化物摂取の主な原因は地下水(井戸水)の利用によるもので、そのような場合には除フッ素装置を使用して、フッ化物濃度を低くして飲用しています。1リットルあたり4         mg以上のフッ化物イオンを含んだ飲料水を使用している地域が0.9%存在していました。12歳児を対象とした調査では、ディーンの分類によるvery mildとmildのレベルがほとんどでしたが、9.2%に歯のフッ素症の所見が認められました。

 フッ化物の全身応用として、タイではフッ化物錠剤を入手することができます、また、学校においてはフッ化物添加ミルク事業が行われています。これは、WHO、タイ保健省、王立Chitraladaプロジェクト、Borrow財団の共同事業として、バンコクで2000年に開始されました。幼稚園や小学校においてう蝕予防のために、子どもたちが飲むミルクにフッ化物を添加しています。

 最初に試験的に実施されたバンコクにおける5年間の事業評価を行ったところ、フッ化物添加ミルクを飲んだ子どもは、飲まなかった子どもと比較して永久歯のう蝕抑制率が34.4%高かったことが明らかになりました。この結果に基づき、このプロジェクトはタイ国内の多くの地域に拡大し、現在、約100万人の子どもがフッ化物添加ミルクを引用しています。

 

〇日本とタイのう蝕有病状況の比較

  1. 3歳児の乳児のう蝕

  タイにおける3歳児の乳歯う蝕有病率は、1989年の66.5%から2012年の51.7%へと減少傾向を示しています。一方、日本では同期間に55.8%から19.1%へと大きく減少しています。う歯数に関しても、1989年から2012年の23年間に、タイでは4.0歯から2.7歯へと1.3歯の減少ですが、日本では2.9歯から0.7歯へと2.2歯の減少が認められます。タイではDMTFは減少傾向にありますが、2012年においても2.7歯と日本の0.7歯の約4倍です。

 わが国では1961年から3歳児健康診査が、1977年から1歳6か月児健康診査が実施されており、保健所・保健センターを中心とした母子歯科保健事業が大きな成果をあげたと考えられます。また、乳歯の治療率も上がりました。

 タイにおいても乳幼児対象のヘルスプロモーションプログラムがありますが、歯科専門家の数が不足している地域では、都市部と同様のプログラムが実施されているわけではありません。ヘルスボランティアが乳歯の要望活動を担っている地域が多くあります。2012年のタイ3歳児のdmft2.7歯のうちdtの占める割合は96%で乳歯の治療がほとんど行われていないのが現状です。

 これまでタイでは乳幼児用の粉ミルクに砂糖が使用されていましたが、2006年に法律が改正され、粉ミルクへの砂糖を添加することが禁止されました。したがって、今後乳歯のう蝕は減少していくと予想されます。

 

  1. 12歳児のう蝕

  タイと日本の12歳児のう蝕有病率とDMFTを示します。日本のデータは学校保健統計調査に基づいており、う蝕の有病率は乳歯の永久歯を合わせたものです。1984年に91.2%と高かった日本の12歳児のう蝕有病率は経年的に着実に減少し、2012年にはタイより低い数値になっています。永久歯だけのう蝕有病率でみれば、もっと低い数値になると推測されます。タイのう蝕有病率は2001年までは増加傾向でしたが、近年は少し減少しています。

 またDMFTを比較すると日本の減少は顕著です。1984年では日本のDMFT(4.8歯)はタイ(1.5歯)の3倍以上でしたが、2012年にはタイにより低い値になりました。

 

〇まとめ

  タイでは保健省□保健課が中心となって、数年おきに全国口腔保健調査が行われています。この調査データをもとに、保険計画の立案及び評価、歯科医療サービスの提供、歯科保健戦略が立てられています。しかしの歯科医療従事者不足のため、すべての学校において歯科保健事業が行われているわけではありません。モデル校を中心とした活動を行い、その成果を評価して周辺の学校に普及しようと努力しています。