世界の子どもの歯科事情⑧

こんにちは!宇都宮市みろ歯科受付鈴木です。

緊急事態宣言も解除され、私もようやく習い事に少しづつ行けるようになりました。

ソーシャルディスタンスを保ちつつ、混雑時には買い物など人の集まるところには行かないなど、新しい生活様式を意識しつつ、楽しみも続けていきたいと思います。

今回も世界の歯科事情の紹介です。今回はミャンマーの歯科事情についてお話していきたいと思います。

〇ミャンマーってどんな国?

正式名:ミャンマー連邦共和国

 首都:ネーピードー

 国土:675.578

 人口:5.358万人(2017年)

1人当たりGDP1.264ドル

  ミャンマー連邦共和国(旧ビルマ)は東南アジア・インドシナ半島西部に位置し、国境を中国、ラオス、タイ、インド、バングラデシュの5か国と接しています。面積は68万㎢(日本の約1.8倍)、首都はネーピードー(2006年にヤンゴンより遷都)です。人口は5.358万人(2017年)で、ビルマ族(人口の約70%)と130以上の少数民族から構成されています。平均寿命は男性が64歳、女性が70歳で、日本と比較して10歳以上低いです(2017年)。国民の約90%が敬虔な仏教徒で、国内のあちこちに寺院やパタゴふがあり仏教遺跡もたくさんあります。

 現在ミャンマーは政治体制や社会システムの変革期にあり、これまでは国際社会から孤立してましたが、国際交流を再開しています。これまで長期間にわたり不十分な保健医療システムが続いた結果、口腔保健を含め国民の健康状態は低いレベルにあり、特に貧困層にとっては経済的に大きな負担となっています。

〇ミャンマーの医療保険制度

 ミャンマーには公的医療保険制度はありません。しかし、政府は2030年までの将来のビジョンの中に新しい医療保険制度を構築することを掲げ、健康で活力のある国民を育成しようと計画しています。保険医療費の国家資支出はいまだにアジアの諸国の中では最低レベルに位置しています。世界銀行の報告(2012年)によると医療費支出の92.7%は個人負担でまかなわれています。

 保健省の役割は、全国のすべての年齢層の人々に対して地域医療サービスを提供することです。口腔保健医関するサービスも、保健省内の管轄部署が担当しています。州、地域、地区、町の保健医療部門で働く公務員の歯科医師は歯科保健医療サービスを人々に提供することが役割です。

〇歯科医療従事者

 日本と比較して、ミャンマーの歯科医療従事者の数は非常に少ないです。歯科医師の数は3.219名(2014年)、人口10万に対する歯科医師数は約6名です(日本:約80名)。公務員の歯科医師が約18%、民間の歯科クリニックで働く歯科医師が約82%です。公務員の歯科医師は、保健省や地域の公立病院で働くものが403名、大学で働くものが164名、計567名です。歯科医師の分布は都市部と地方とで大きな差が認められ、都市部に集中しています。

 ミャンマーには歯科衛生士やデンタルセラピストなどの職種は存在しません。デンタルナースが養成されていますが、その数は全国で357名と非常に少ないです。また、働いている歯科技工士の数は116名です。歯科技工士の教育は高校卒業者ではなく、大学卒業者を受け入れて2年間行います。

〇口腔保健プログラム

WHO(世界保健機関)との協力によって、Oral Health Care Projectが1991年に開始され、現在は全国の120箇所の市町村に拡大して実施されます。この事業では、訓練を受けた地域のヘルスワーカーが5つの基本的事項、「歯科健診」、「簡易的歯科治療と緊急治療」、「他の病院への紹介」、「健康教育」、「小学校における昼食後の歯みがき指導」を実施しています。特に、予防歯科が強調されており、予防プログラムの一環として健康教育用のパンフレットや図書を学校に無料で配布しています。

 子どもを対象とした口腔保健事業は、学校保健プログラムと地域における口腔保健プログラムの2つの方法で行われています。学校保健プログラムでは、学校歯科医が責任者となって、学童に対して、口腔保健サービスを行います。さらに、各学校には健康教育を行うためのトレーニングを受けた特別な教師がおり、学校歯科医とともに保健活動を行います。

 小児期から口腔ケアの重要性に気づくように、口腔保健メッセージは、学校カリキュラムの中に統合して組み込まれています。学校は多くの国民をカバーしているので、ヘルスプロモーション活動行うのに最も適した場所です。

 昼食後のブラッシングは、小学生に正しい歯磨きの技術と口腔清掃習慣を身につけてもらうために、健康教育の一環として十施されています。2013年にミャンマー歯科医師会とUnilever Oral Careが連携して、LLLLive Learn Laugh)プロジェクトが開始されました。プログラムの主なメッセージは、「フッ化物配合歯磨剤を使って一日二回ブラッシングしよう」というものです。

 予防思考のこのプログラムは、学校の子どもたちに口腔保健の重要性を伝え、好ましい保健行動を実践してもらうことを意図したものです。地元の歯科医師がボランティアで学校に出向き、口腔保健に関する健康教育を行ったり、歯科健診を行ったりしています。学校の教師もこの事業を参加して、歯・口腔の健康教育を子どもたちに行います。

 また、歯科医師がボランティアで地域における保健医療サービスを行うこともあります。社会福祉組織や修道院が管轄する孤児院や青少年対象の職業訓練機関などで、子どもたちに対して、健康教育、歯科健診、緊急の歯科治療などを提供しています。

 歯科大学の小児歯科分野では、大学病院で14歳以下の子どもに対して必要な口腔保健事業を提供しています。小児歯科専門家のいる民間の歯科クリニックの数は、以前は非常に少なかったのですが、現在では増加しています。

 フッ化物の応用で最も普及しているのが、フッ化物配合歯磨剤の使用です。ミャンマーでは水道水フロリデーションや集団フッ化物洗口などの予防法は実施されていません。フッ化物歯面塗布や家庭でのフッ化物洗口によるう蝕予防は、公的歯科医療機関では行われておらず、民間の歯科クリニックで実施されています。

〇噛みタバコと口腔がん

  ミャンマーではう蝕や歯周病以外に、口腔がんが大きな歯科保健問題となっています。口腔がんは、男性ではすべてのがんの中で4番目に、女性では6番目に多いがんとなっています。南アジア、東南アジア、アジア太平洋地域の国々のでは、古くからBetel quidによる噛みタバコの習慣が認められていますが、他の東南アジア諸国と比較して、ミャンマーでは特に若年層において噛みタバコの使用が増えており、それが口腔がんの原因となっています。

ミャンマーにおけるBetel quidによる噛みタバコの使用率は、全体で52%です(2014年)。13~15歳の中学生においても男子生徒の26.3%、女子生徒3.7%が噛みタバコを使用しています(2016年)。噛みタバコは街中の多くの屋台や店頭で販売されており、成人も子どもも容易に入手できることができます。今後歯科関係者が中心となって、噛みタバコの悪影響を伝える健康教育や口腔がんの早期発見を行うことは非常に重要と考えられています。

現在、保健省はタバコ対策に真剣に取り組んでおり、若者のタバコの使用を減らすためにタバコ製品に対する、増税、タバココントロールプロジェクトの実施、メディアによる健康教育、学校、大学、種々の組織機関や公共エリアでの禁煙エリアの設置などを推進しています。

〇う蝕有病状況

  2007年にミャンマーで実施された疫学調査の結果を示します。5歳、12歳、35~44歳のう蝕状況を見ると、特に乳歯のう蝕が多いことがわかります(5歳のう蝕有病率67.9%)。ミャンマーでは、人々の口腔保健に関する知識や行動はまだ不十分です。一般的に、親は「乳歯は永久歯と生え変わるので、子どもの口腔保健は重要でない」と考え、子どもの歯や口腔の健康に気を配りません。このような関心の低さが乳歯う蝕が多い原因の一つと考えられています。

 ミャンマーでは、これまで国レベルでの口腔保健に関する実態調査は実施されておらず、一部地域の口腔保健データしかありません。今後、予防対策を企画・実践していくうえで、全国レベルの口腔保健状況に関する実態調査が必要と思われます。

〇まとめ

 他の国々と比較して、ミャンマーの歯科保健制度はまだ十分十分整備されていません。歯科専門家の数が少なく、公的医療保険システムがなく、歯科治療費が高額であることから、ミャンマー国民は必要とされる口腔保健サービスを容易に受けることができません。そのため、ミャンマーではう蝕が蔓延し、特に、乳幼児のう蝕が深刻な社会問題となっています。また、伝統的に口腔がんのリスクとなるBetel quidを噛む習慣が男女ともにあり、タバコ使用のリスクに対する国民の知識も不足しています。

 今後は、緊急の歯科治療だけでなく、予防中心のプログラムを全国レベルで推進していくことが大切です。さらに、歯科医療従事者の数が不足していることから他職種とも協力し、政府や非政府組織と連携して効率的かつ効果的な口腔疾患の予防プログラムを実践していくことが必要と考えられます。