ご家族のや患者さんと出会い

こんにちは。宇都宮市のみろ歯科の歯科衛生士、中村です。

今回も少し動物のお話をさせていただきます。
よく、犬が走った後などベロを出して呼吸を整えたり、猫が身体中を舐めったり、はたまた牛は長ーいベロでご飯を食べたりしてますよね?

あれって何の意味があるんでしょうか??

以前から唾液については色々お話をさせていただいてますが、さらっと復習すると免疫、消化、粘膜保護、咀嚼 など様々な働きがあります。
犬の場合、パンティングと言って、鼻から空気を吸って口から吐き出して唾液で体温調整をしているようです。

人間とはまた違う構造なので調べてみると面白いですよね。

 

さて、ここから本題です。
訪問歯科診療を始めて数ヶ月経ちます。色んなご家族のや患者さんと出会い、外来では味わうことのできない感動にも立ち会うことがあります。そんな中で、先日読んだ本で感動した話があるので引用させていただきます。

…スーパーでキャラメル味のスナック菓子を見るたびに思い出す患者さんがいる。すてきな90代のご夫婦で、なんと50年も当院に通ってくださっていた。開業して70年。祖父の代から三代に渡って診させていただいた。「父が働くのがしんどくなり、診療室には行けそうにないから訪問診療に来てもらえないだろうか…」その患者さんは、かなり以前に脳梗塞を起こしてからも、ずっと通院されていたが、徐々に足腰が弱まり、日に日に来院するのが難しくなってきた。
はじめの回数は義歯調整や口腔ケアによる訪問だったが、食事量も減ってきているとのことで、嚥下機能検査もさせていただくことになった。

黙々と食べる旦那さん。豪快に奥さんの手作りの卵焼きをほおばったり、銀シャリも美味しそうに召し上がる。その姿を傍でニコニコと見つめる奥さん。そこにはなんとまほんわりとした雰囲気が漂っており、印象的な食事の風景として胸に残った。

嚥下機能検査の結果は残念ながら厳しい状況で、卵焼きは肺に落ちかけていた。このままの食事形態を続ければ、誤嚥どころか、いつ窒息してもおかしくない。さらに気になったのは食事の姿勢。夫婦そろって座っているのは、ちゃぶ台の前にぎこちなく置かれた椅子だった。床に座ると足腰が前のめりになりお皿をとっていた。その姿勢は、誤嚥防止の視点からすると非常に危険で、不自然な姿勢となってしまっていた。
「少しでも長くご夫婦のおだやかな食事の風景を守りたい」
そう思い、当院の他職種によるサポートがスタートした。いったんは安心して食べられる状況が整ったが、それから数ヶ月後、いわゆる老衰状態となり、咽頭機能も、食事量もさらに落ちてきた。色々模索しながらサポートし続けた。
90代の要介護者と介護者の二人暮らしにはやはり限界があり、しばらくして介護施設の二人部屋へと入居されたお二人だったが、アットホームな場所で、夫婦仲良く楽しく過ごされていた。

入居から半年が過ぎる頃、旦那さんは食べ物を吐き出されることが増え、旅立ちの日は近づきつつあった。そのうち、ほとんど食事を口にされなくなるようになり、奥さんと娘さんへの不安は高まっていった。私たちは毎週口腔ケアをしに訪問へ伺い、できる限り支援を続けた。

食事をほとんど摂らなくなって1ヶ月以上が経った。90代を過ぎてもずっと一緒に食卓を囲んで食べることを大切にされていたこともあり、点滴は行わないことを選ばれていた。しかし、訪問診療に伺うと、ご本人はいつもおだやかな表情で迎えてくださるのが、実に不思議であった。

ある日、ベットの横にあるお菓子コーナーに気がついた。大好物だというキャラメル味のスナック菓子が、いつの間にか空っぽになっていたのである。
「そうか!もしかしたら、このおかしでいきていらっしゃるのかもしれない」

袋をひっくり返して少し驚いた。意外と高カロリーじゃないか。うとうとと寝ている時間も多く、いつ食べられているかは謎だったが、ふと「窒息したら……」と頭によぎった。しかし、おだやかに過ごされているご本人を思い、このままにしておこうと決めた。

ちょっと目が覚めた時にポリポリ……そんな風にされてから2ヶ月、ほとんどスナック菓子のみで生き延びられた。

ある訪問日、その日はいつになく寝ていらっしゃった。ていねいに口腔ケアをしてさしあげると、ふと目を開けて微笑まれた。そしてそっと手を挙げられ、「敬礼!」とおっしゃった。奥さんが傍らでにっこりと笑われる。「この人は自衛官だったからね……」。
それが最後のお別れになった。その数日後、眠るように亡くなられた。

それから2年後、奥さんも徐々に老衰が進行してきた。心配された娘さんからご依頼を受け、訪問診療に伺った。旦那さんと同じく、点滴などの人工栄養は選択されず、口から食べられる範囲で栄養を摂取されていたが、傾眠状態となり、食事の途中に目が閉じてしまう。
娘さんがスプーンで介助する傍らで、われわれはそっと聴診器をあて、嚥下状態を確認する。弱々しいが、しっかりとした嚥下音が聴こえた。

「食べる量は減ってきているものの、無理をせずに、食べられる範囲で食べてもらってください。」娘さんは安心されたようだった。それからさばらく経った後、奥さんもおだやかに、旦那さんのもとに旅立たれた。

キャラメル味のスナック菓子をみると思い出す。あの夫婦のほんわりとした雰囲気漂う食卓風景を。3世代50年のかかりつけ医として、本当にすてきなご夫婦との出会いをいただいた。

いかがでしょうか?
よく、老々介護は大変。家族は非協力で介護は負担。と聞きますが、こんなすてきな夫婦もいらっしゃいます。この歯科医のように、いつも最善と全力を尽くして訪問診療をしようと、改めて思うことができました。
色々な考えがある中で治療や口腔ケアをしていますが、それが全て本人や家族のためにあることを念頭に、今後も頑張りたいです。